平成20年度 都図研研修会

平成20年度 東京都図画工作教育研究会 研修会 報告
「図工によって育む資質・能力 ― 表現や鑑賞の過程で働く力を考える ―」

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都図研website http://tozuken.com/

平成20年6月13日、都図研の研修会が開催されました。内容は、2つの「造形遊び」の授業をもとに協議が行われ、新学習指導要領にどのように対応していくのか、研修を深めるというものでした。多くの関係者が集まり、充実した研修会が行われていました。

 

1.期日  平成20年6月13日(金)13:20(受付開始)~17:00

2.会場  品川区立清水台小学

3.内容
研修テーマ  「図工によって育む資質・能力」 ~表現や鑑賞の過程で働く力を考える~

―新教育課程に向けて―

13:20~  受付開始
13:40~14:40 公開授業

授業1 鶴見大学短期大学部  石賀直之 先生 線がつながり、世界がひろがる
授業2 世田谷区立桜小学校  楚良 浄 先生 つくえの上の「カオ」

14:50~  授業を通しての話
15:30~  講演(指導・講評)
【講師】文部科学省初等中等教育局教育課程教科調査官 奥村 高明 先生

17:00   終了

4.対 象  図工専科およびその他の関係教諭 (図画工作を担当するが旧担任、心障学級担任など、主幹を含む)
 


 

授業1-図画工作学習指導案-

■ 線がつながり、世界が広がる ■

授業者
鶴見大学 石賀 直之
5年生 A表現(1) 3時間

■ 目標
スズランテープを結んだり表したい場所につなげたりしながら思いついた活動をすることを楽しむ。

■ 指導計画<3時間>
ア.スズランテープをつなげたり結んだりすることのおもしろさを味わう。
イ.スズランテープをつなげてみたい場所を見つける。
ウ.見つけた場所でスズランテープをつなげながら思いついたことを楽しむ。
エ.自分たちのしたことや、友だちの様子を味わう。

■ 準備
スズランテープ10巻

■ 題材について

○ 立案
低学年中学年と同様に高学年の造形遊びにおいてもどのような材料を取りあげるかは重要な要素である。高学年で取り扱う材料は、多様な活動、発見が見込まれるものであることが望ましい。なぜなら高学年の活動は「わたしと材料」といった関係だけでなく「わたしと、材料と、友だちと、周りの様子と」といったあらゆる要素が絡まっていくことがより子どもたちのもつ資質や能力の発揮に迫ることができるからである。
スズランテープは線材としては一般的であり、これまでも多くの造形遊びの実践がなされてきた。スズランテープを校庭いっぱいに張りめぐらせる、遊具に絡ませるなどの活動が代表的であろう。しかし、主に中学年の実践であり高学年ではあまり実践されていない。それはこのようなダイナミックな活動と高学年の造形遊びのねらいが合致しないと思われるからである。

○ 高学年でスズランテープを取り扱うことに際して配慮した点
高学年であまり使われないスズランテープを材料にするにあたって次の点を考えた。
・スズランテープの可能性を追求する時間をどのように保証するか。
・スズランテープのよさやおもしろさを子どもなりに実感するにはどうしたらいいか。
以上のことに対し考えた手立ては次の4点である。
・スズランテープの長さを1m程度に切る。
・色数を増やす。
・スズランテープのよさを見つける時間を保証する。
・場の設定として教室の中央に山積みにしておく。
スズランテープをロールのまま子どもたちに渡しても、長く伸ばすことに終始してしまいスズランテープのよさを発見するに至らないことが多い。そこで、結ぶ、つなぐの行為から様々な発見があるのではないかという考えから1m程度の長さに裁断した。大胆に山盛りに積んだのは子どもたちが始めて会う教師にあわせた(遠慮した)活動にならにように「材料に関わる本気の楽しさ」を感じてもらいたいという意図があった。この点をおろそかにしては造形遊びにならないと強く考えた。

○ 前時までの履歴
材料と関わる高学年の姿
1mに切られたスズランテープをつなぐことは子どもたちにとって心を開き材料と関わる活動になった。スズランテープに体を埋め結んでいく姿はその象徴であろう。高学年といえども頭で考えたことを表すだけでは材料と深く関わることにならない。発想構想することは自分の頭の中にあることを引き出すのではなく材料との身体的なかかわりを通して思いつくことが多い。
また、発想構想するという点において友人との関わりや周りの状況に気付くことも重要な要素である。
1時間目にはこちらの予想に反して色々なつなぎ方をするというよりどんどん長くつなぐ活動が多く見られた。これは机を取り除いた空間に山積みに置かれたスズランテープの量がどんどんつなぐ活動を誘発したからであろう。もう少しスズランテープの量が少なければ、活動場所に机があれば結び方に着目するなど工夫した活動も生まれただろう。しかし、造形遊びでは材料に心を開きその活動に浸りきらなければ造形遊びの前提からはずれてしまう。子どもにゆだね、教師がハンドリングできない要素がなければ活動そのものの意味がなくなってしまうという信念が私の中にある。その意味では、十分であり必要な活動であった。
子どもたちとともに出会い、余裕の生まれた2時間目は前時に身体的に味わったスズランテープそのもののよさを子どもが自覚する時間になった。環境レイアウトも机を配置し、スズランテープも色ごとに並べ、子どもが色に着目し、選びたくなるように配慮した。机があり、好きな色を選ぶという前提を加えただけで材料とのかかわりが前時とは全く違った。子どもの活動と環境構成は密接なかかわりがあることを再認識した。発揮される資質や能力の見取りも違い、1時は五感を駆使して直感的に行為が生まれ発想することが主であったことに対し、2時は児童の意図とスズランテープの見えの変化から発想が広がっていくことが主であったと考える。材料のよさを追求したあとに活動したい場所を選んだ。そして、本時を迎える。

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■ 学習の流れ

1時

■ スズランテープと出会う

T:スズランテープをつなげて思いついたことをしてみよう。
S:どんどんつなげられるぞ。
・山積みにされたスズランテープから、活動することのおもしろさを感じ活動に関心をもつ。

2時

■ スズランテープの色々な可能性を楽しみ、そのよさが生きる場所を探す

T:好きな色を4色選んでどんなことができるか探してみよう。
S:裂くことができるよ。
S:カシャカシャ音がするよ。
S:透明で透けて見えるよ。T:見つけた面白さが生きる場所を探してみよう。
S:結ぶ場所がたくさんあるところがいいな。
・色を選ぶことから色にも目を向ける。
・結ぶつなぐを中心にスズランテープに関わる中でいろいろな可能性をみつけ発想を広げる。
・場所のよさを認めながらあらゆる状況を考慮して決定する。

3時
本時

■ 表したい場所でスズランテープをつないでいきながら活動を広げる

T:スズランテープのみつけたよさを生かしながら気に入った場所につないで景色を変えてみよう。
S:風の流れを活かしてみよう。
S:この場所にこの色が合うね。
・刻々と変化する活動を見取り声賭けをしていく。
・活動のよさを味わう。
・場所のよさを感じながら発想を広げ、よさが生きるように工夫しながら表す。

 


 

授業2―図画工作指導案―

■ つくえの上の「カオ」 ■

授業者
世田谷区立桜小学校
図工専科 楚良 浄 先生

1.実施  平成20年6月13日(金) 5校時

2.対象  品川区立清水台小学校  3年生

3.題材について

身の回りのモノを使って机の上に「カオ」をつくる。まずは人の顔の表情がどのように作り出されるのかを考え、その後、机の上に色々な材料を組み合わせて置き、「カオ」にする。作業は単純であるが、児童一人一人が、自分でイメージした「カオ」を再現しようとすることと、材料に触れながら発想することを交互に、または同時に行い、つくり変えていく過程を楽しみながら活動する。つくるものを「カオ」に限定するので、A表現(2)ではないというご意見もあろうが、即興性を重視し、作り変えていく過程に大きなポイントを置くことから、あえてA表現(1)とした。
人は他人の顔を見るとき、目・耳・口などの組み合わせによって作られている表情を読み取る。顔に表現された感情をキャッチしながら、基本的な人間関係を築いていく。「楽しい」、「うれしい」、「悲しい」、「心地よい」、「嫌だ」など言葉と共に顔の表情は、人間の感情を表現する最も基本的なものである。本のわずかな顔の変化は、周囲の人にも大きな影響を与える。
本授業で児童が机の上に作り出す「カオ」は、自分の顔と違い、感情を直接表しているというよりは、意図的な「カオ」である。例えば、自分が怒っているから怒った顔になるのではなく、「怒ったカオを作ろう。」と考えて工夫した「カオ」である。また、材料を組み合わせているうちに「怒ったカオになってきた。」という場合もある。偶然の中から、「これにしよう」と自ら選び出した「カオ」である。児童一人一人が、本題材にユーモアをもって取り組み、そのプロセスをおおいに楽しみながら、発想・構想、創造的な技能を育て、豊かな情操を育むための一場面としてもらいたいと願い、本題材を設定した。
この題材を年間計画に位置付けてから、10年が経過した。始めた当初は、今よりも比較的はっきりとした表情が多かったように感じる。ここ数年、「微妙(ビミョー)」な表情が増えてきているように思う。また、本人は笑っている顔を作ったつもりでも、見る人にはどこか不安に感じさせるというように、心境が反映される?ということもあろう。デジタルカメラを使って児童が互いに鑑賞しあう場面では、自分が意図した表情と、友人の感じ方について、相違点・共通点にも気付いて欲しいところである。

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4.準備
ボタン、ビーズ、どんぐり、・容器の蓋、マーカーのキャップなど
他に図工室の道具(ペンチ、金槌など〉、デジタルカメラ、再生用モニター

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5.題材の評価基準

興味 ・関心
材料と積極的に関わりながら、ならべて「カオ」をつくることに興味を持ち、つくり続ける。

発想 ・構想
物の形や組み合わせなどから、発想を広げ、作り変えていく。

創造的技能
つくろうとする表情のために、適切なものを選んだり、置き方を工夫するなど、よく作ろうとする。

鑑賞の能力
活動全体を通じて、「カオ」の面白さ、豊かさに気付き、様々な表情の感じ方があることを知る。

6.学習の流れ

児童の活動 教師の働きかけ

導入

5分

説明を聞く。
顔について考える。

「顔のかたち?  目? 口 ・・・。」



各自考える。

自己紹介題材の説明

「今日は、机の上にカオを作ります。みなさん、まずはじめに、顔について考えて見ましょう。人の顔の中で一番気になるところはどこでしょう。」
(興味・関心への働きかけ)

「私の顔を見てください。顔の印象は何で決まるでしょうか・・・。」

「さて、様々な材料や道具を使って、机の上に、カオをつくってみましょう。今日は一時間なので、思いのままにつくってください。材料・道具は机の上にあるものを使ってください。アイデアを生かしてどんどんつくりましょう。」
(発想・構想への働きかけ)

「途中で写真を撮りますので、記録は残ります。どんどん作り変えていって構いません。最後の上映会をしたいと思います。」

展開30分 材料を選び、作る場所を決め、活動開始。 材料・道具の説明・注意(創造的技能への働きかけ)

片付け

5分

鑑賞

5分

モニターに映し出される「カオ」を鑑賞する。思いのままに感想を述べ合う。

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「それではそろそろその前に、友達がつくったカオを見てみましょう。」
(鑑賞への働きかけ)「時間になりました。みんなのカオを鑑賞できましたか。」
(鑑賞への働きかけ)「上映会を行います。消えてしまったカオを、もう一度見てみましょう。」
(鑑賞への働きかけ)「今日はみなさん楽しく出来ましたか。」

 

記録・文責 都中美広報部 志手 伸圭(中野区立中野富士見中学校)