ホーム≫ 研修会

 研修報告  H23.8.3(水)
記録:墨田区立文花中学校 深見響子

都中美研修会 「新学習指導要領完全実施に向けて〜年間指導計画を見直そう」

■期日:平成23年8月3日(水)9:00〜17:00
■会場:中野区立第三中学校
■講師:武蔵野六中学校  中村みどり主幹教諭

■ねらい:
年間指導計画を持ち寄り、新学習指導要領の骨子を踏まえた支店でお互いに検討しあいながら課題を見つけ、改善案を練り上げていく。

都中美会長 吾嬬第二中学校 菊田校長先生

・作品づくりありきではなく、子どもにどんな力をつけさせたいかをまず考える。
・教員の発想力向上を→授業づくりへ

中野第三中学校 池田校長先生

・美術科の存在、研修機会の減少
・活発に会を設けて学びあい、美術教育活動の確たるポジショニングを。
・東京の中だけで考えるのと、それ以外の地域での視野のとらえ方の相違を。

府中第五中学校 中村校長先生

・課題をもって研修に参加。
・生徒の顔を思い浮かべながら。
・9月以降新学習指導要領に基づく年間指導計画を作成する必要。
・質的に美術の授業を変えていく必要あり。それを表わすのが年間指導計画。
・今日の講義を各地区に戻って役立ててもらいたい。

講演   文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官 東良雅人先生

◆指導と評価

教育活動の改善

Plan:指導計画等の作成
Do:指導計画を踏まえた教育活動の実施
Check:生徒の学習状況・指導計画等の評価
Action:授業や指導計画等の改善

※計画がなくても授業はできてしまうが、生徒に力はつかない。
→評価をしない
→授業計画の改善は行われない。
※指導計画があって初めて評価ができて、それが授業改善に結びつく。これ以外に改善方法はない。

新しい学習指導要領の趣旨や狙いを理解して

【育成する資質や能力】 学習指導要領に示されている目標及び内容
【指導内容】 指導要領には記されてはいない。各学校において生徒や学校の実態に応じて適切に設定する。
【学習活動 教材や用具】 楽しく。
【学習環境】 美しい美術室であるように。机の配置など学習の狙いに応じて。

活動や作品のイメージではなく、生徒の学びのイメージから授業をつくる。

教員だけでなく、生徒と身に付く力のイメージを共有すべき。
指導者が作品至上主義でなくとも、生徒がどうその評価を捉えているかは分からない。
完成作品を軽視すべきではなく、途中経過も大切にすべき。

 

◆新しい学習指導要領

習指導要領改訂までの経緯・・・平成18年に教育基本法改正   19年に学校教育法改正

重要な3つの要素

○基礎的、基本的な知識・技能
○思考力・判断力・表現力
○主体的に取り組む態度

小中高を通じて図画工作科・美術科・芸術科の改善の基本方針

美術科への課題の指摘

・育成する資質や能力と学習内容との関係を明確にする。
→学習指導要領はただ変っただけではなく、課題があってそれを改善するために改訂されている。

表現領域の内容構成のこれまでの経緯・・・平成10年告示と20年告示は基 
本的に同じ。
教材が同じでも学習のねらいによって育成する資質や能力は異なる。

・感じ取ったことをもとに自分の思いや考えを大切にしながら・・・

鑑賞の活動は良さや美しさを感じ取り、味わい、自分なりの意味や価値をつくりだす。
価値を与えるのではなく、生徒がつくりだした価値や意味を共有して、またそこから新しい価値や意味を生み出す。←言語活動の充実、言葉の大切さ
子ども一人ひとりの感じ取ったことが認められ、大切にされること。
このことは鑑賞の時だけでなく、表現の時も指導者が大切にしてもらいたい。子ども同士でも個々の価値を大切にしあう、家庭でも作品を飾ってもらう等。

A表現→発想構想の能力+創造的な技能  これらを育成する時に共通に必要となる
B鑑賞→鑑賞の能力           資質や能力=「共通事項」
「共通事項」は直接題材にする必要はないが、題材を見直す必要はある。
(ア、イにあてはまるかではなく、両方の視点でみてどうかをチェック)

◆指導計画作成上の配慮事項

(1)「A表現」及び「B鑑賞」の指導については相互の関連を図るようにする。表現のための鑑賞ばかりしていくと、こどもが技術面しかみなくなる危険性あり。これを踏まえると、表現と鑑賞の順序を検討する必要もでてくる。
(2)「共通事項」は表現及び鑑賞に関する能力を育成する上で共通に必要なものであり・・・
(3) 「A表現」については、(1)及び(2)と、(3)は原則として関連づけて行い、(1)及び(2)それぞれにおいて描く活動とつくる活動のいずれも経験させること。

「A表現」指導計画の作成例

A表現 (1)+(3) (2)+(3)
描く つくる 描く つくる
1年
2年    
3年    

※(2)は項目がア〜ウの3つあるので、描く・つくるを各1題材ずつではなく、もう1題材入れる必要がある場合あり。

(4)「B鑑賞」の指導については、各学年とも適切かつ十分な授業時数を確保すること。
(5)道徳の時間などとの関連を考慮しながら、第三章道徳の第2に示す内容に基づいて
芸術科の特質に応じて適切な指導をすること。
学校行事にも関連させ、こどもに身に付けた能力を実感させる機会を設ける。

◆学習評価

学習指導要領学習評価の関係

↓      ↓
↓     結果の面から全国的な教育水準の維持・向上を目指すもの。
指導の面から全国的な教育水準の維持・向上を目指すもの。

評価による妥当性と信頼性

「・・・目標に準拠した評価の客観性や信頼性を確保し、・・・」
→学習評価の妥当性、信頼性を高めるように努めることが大切である。

評価の過程を通して、子ども達を次の学習につなげる。

「妥当性」評価結果と評価しようとした目標の間に関連性があること、評価の方法が評価の対象である資質や能力を適切に把握するものとして相応しいものであること等が求められる。「信頼性」評価を指導に生かしていくためには、単に数値化されたデータだけが信頼性の根拠になるのではなく、評価の目的に応じて評価する人・される人、それを利用する人がお互いに概ね妥当があると判断できることが、信頼性の根拠としての意味をもつ。

評価が生徒の次の学習意欲に結びくようにしなくてはならない。

新しい学習指導要領における評価の観点の考え方
「思考・判断・表現
→表出させなければ評価が難しいもの。説明、論述、討論などの  
言語活動を通して評価する。

観点別学習状況
評価の観点及び趣旨・・・小学校と中学校で表現方法は異なるが、評価の観点・育成
する資質や能力は同じ。

◆各観点のポイント

《関心・意欲・態度》

各学年の目標は観点別に設けられている。
造形的行為が面白い・楽しいだけでなく、資質や能力を発揮しようとしたりする。
「関心意欲態度」以外のそれぞれの能力・技能を発揮している時の「関心意欲態度」
を評価する。(国立教育研究所HPよりダウンロード可)
題材に取り組む中で継続性をみていくことが、関心意欲態度。1回の授業の中ではBを想定して授業し、Cの生徒がいたら支援する。それでもCである生徒を把握・記録する。次の授業ではCの生徒をまず対応する。最後にその生徒がBになれば、Bとして評価をつける。Aは概ね途中段階から出現するので、それを把握・記録する。

《発想や構想の能力》

初発よりも進行中の中で徐々に高まる場合が多い。
評価するのは最も高まった時。その時を評価する。
完成した作品が出来映えとして悪くても、途中段階で良ければ、その時を評価する。
作品の意図が読み取れない場合があるので、言葉で最後にでも書かせた方がよい。
→これを見ながら生徒にもその視点で他者評価をさせるなどすると良い。

《創造的な技能》

意図をどう表現するか。

《鑑賞の能力》

子どもの中で生まれたものを表出させる→言語活動やワークシート
「感想」の評価は難しい。
ワークシートは学習のねらいが読み取れる内容で作成すべき。 
指導の視点・・学習のねらいにもとづいて生徒の学びを高めるもの。
評価の視点・・生徒の学習のねらいにおける学習状況を把握し、指導の工夫改善に
つながるもの。
ワークシートの設問の全てが評価されなくともよい。
(例)生徒の作品への関心を高める設問
授業を円滑に進め生徒の思考が高まるように。
ワークシートの内容は評価基準に基づいた内容を設問に反映させる。
感じたことや考えたこと→漠然としていると幅広くなるので、ポイントを絞っておく。
ワークシートの設問は、言語活動における指導者の発問にもあてはめる。

◆おわりに

美術科の目標
「豊かな情操を養う」
「情操」とは、美しいものや優れたものに接して感動するなどの情感豊かな心であり、美しいものやよりよいものに憧れ、それを求め続けようとする豊かな心の働き。
豊かに感じる力をもつ子どもを養う

 

◆質疑応答

Q@美術における「習得」とは?

A@美術の基礎的な能力。何を活用させて、どう表現させるのか。題材の目標に基づいて
身に付けるものを設定して指導する。年間指導計画を見直す。教えるべきことは何
かをきちんとおさえておく。

QA評価の達成率について

AAall B=3、all A=4or5(←目標に対して特に程度の高いもの)、all C=2or1

QB「A表現」(2)ア、イ、ウの違いは?

ABア、イ、ウのどれにねらいを定めていきたいかをまず考える。これらの力を身に付け
させるものとして、その題材・材料がふさわしいのかをまず考えるべき。

QC知識理解=鑑賞、テストの点=鑑賞ではないことについて

AC確かに鑑賞の能力はインプットの面が強いが、知識理解だけでなない。鑑賞は定まっ
た価値・知識・理解を押しつけるものではない。

QD鑑賞でこどもがつくりだした価値を重要視することを全面にだしすぎているので
は?知識理解もベースとして必要では?

AD確かに。鑑賞はこれまで知識理解として定まった価値を指導する授業が多かった為、
新学習指導要領ではその点が課題として改訂につながっている。

 

グループワーク

@各自が持参した年間指導計画について改善点を話し合う
A自分改善案を作成する
Bグループで発表

講演 武蔵野第六中学校 中村みどり 主幹教諭

改善の4つの具体的なポイント

・創造活動の基礎的な能力の育成
・生活の中の造形や美術の働きを豊かに感じ取る
・自分なりの意味や価値をつくり出す鑑賞(授業時数の確保)
・美術文化の継承と創造(我が国の)

「一番大切なのは、(子どもが)美術の授業を喜び、やってよかったと思える授業づくりである。」
(H20,5,23 前文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官 村上尚徳先生)

「つくり出す喜び」とは・・・

・様々な素材にふれて、自分で使いたい。
・素材にふれてつくることは、特に中学1年生にとっては大事(小中連携、中1ギャップ)
・日頃触れたことのないものに生徒は心をひかれて興味をもつ
・色々な素材に興味をもつことで、制作の喜びや意欲につながる。

自分で必要な材料を持ち込ませている→子ども同士で興味が高まる
粘土→触感(造形遊びの延長として)
カラーセロハンで自分の感情を表現する題材→要因が自分にあり、他と話す暇なく黙々と制作。OHPで教室内に投影できる。「ワー!きれい!」喜びの感動が必ず残る。
銅版を自由な形に切り取らせる題材→ガンガン叩かせストレス発散。「面白かった」「楽しかった」
卒業生の一言:美術授業の感想・後輩へのアドバイス
「自分だけの作品にすること」「材料を前にして考え取り組むこと」「丁寧にやること」
「苦手でも最後は楽しいと思える」「美術は自由です。上手い下手はないですよ」

美術授業だけでなく、

・やりたいことができたことが1番うれしい。
・友達の考えや思いを知ってわかり合えるとうれしい。
・できなかったことができるとうれしい。
・新発見はうれしい。
→小学校の造形遊びでは楽しさを実感してきている。そこを中学校でもすくいあげ
た方がよい。

美術の授業では

・作品には自分の気持ちを込める
・完成作品には作品カードを必ず添えさせている。
・実物投影機など視聴覚機器の活用(コメント言うとこどもは喜ぶ)
・制作途中の記録カードや完成後の自己評価
・手に取った時の感動があるような材料や作り方の工夫ができる題材や教材
・鑑賞授業は、話し合い活動と講義の両方で(生徒の発見、こどもが知らないことを
講義する
・全員の作品展示、特に上級生の作品に注目させる

美術の教科目標

 

表現と鑑賞の活動

↓  ↓
↓  美術文化を味わい理解
↓  自分の感じ方で良さや美しさを感じ取る
↓  生活の中の造形や美術の働き
一人ひとりの資質や能力の向上、自己実現    やってよかったなという授業づくり

各学年の目標

「A表現」で育む能力・・(例)何かをかく時、そのものらしさ等、自分が主題をみつけて制作に取り組む大切さ
「B鑑賞」・・諸外国、身近な地域、日本について

 

授業計画作成上の留意点

・表現と鑑賞の指導の関連
・共通事項・どの場面で指導するのか明確に
・「A表現」(1)(2)、(3)は原則として関連づける。
(1)及び(2)において、描く活動とつくる活動のいずれも経験させるようにする。2・3年では描く活動とつくる活動が調和的に行えるようにする。
・鑑賞の学習を年間指導計画の中に位置づけ、必要な授業時数を定め、確実に実施する。
・道徳の時間等との関連

第1学年の指導計画について

・一題材に充てる時間数を少なくする
・比較的、短時間ででき、効果的に

第2・3学年の指導計画について

・一題材に時間をかける指導

1学年

・最初に「見て感じて花のスケッチ」・・花を描かせながら、何をかんじたのかをコメントさせる(主題を)
・心にあるものを1年のはじめの頃にださせるトレーニングをする
・カメラは創造的な技能ではない。A(1)アのみ。
・タイトルをつけさせる(主題を明確にする)
・自分の心を表せる形の工夫

2学年

「超現実的な世界」←グループで鑑賞させる

 

◆質疑応答

Q名前のレタリングをさせる際、名前の由来が分からない生徒にどう対応しているか?

A一緒に漢字のもつ意味を調べた。