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 研修報告  H22.8.23(月)
文責:町田市立金井中学校 福島淳子
記録:中野区立南中野中学校 志手伸圭

都中美研修会 「美術館との連携による鑑賞指導の充実に向けて

■期日:平成22年8月23日(月)9:00〜17:00
■会場:東京国立近代美術館
■ねらい:
新学習指導要領の重点としても示されている「鑑賞」指導の充実に向けて、美術館の所蔵作品を活用し、教育普及学芸員の支援を受けて生徒の効果的な鑑賞活動のための方法を研究する。

■主催: 東京都中学校美術教育研究会、東京国立近代美術館
■協力: 国立西洋美術館

東京国立近代美術館との共催で、鑑賞の研修を実施しました。ゆっくりと作品と向き合い、感じたことや考えたことを言葉にしていく、豊かな時間を過ごすことができました。ご協力いただきました東京国立近代美術館の皆様、学芸員の皆様、ありがとうございました。とても充実した研修となりました。

記録:中野区立南中野中学校 志手伸圭

VTS(Visual Thinking Strategies)についてのガイダンス

DVD"Thinking through Art"(イザベラ・スチュアート・ガードナー美術館)を見た後、寺島さん(国立西洋美術館学芸員)によるVTSによるミニレクチャーを受けました。映像で見たこどもたちは、作品を前にして、活き活きと言葉を紡ぎ出していました。

DVDの放映「Thinking through Art 」イザベラ・スチュアート・ガードナー美術館

  

 

VTS(Visual Thinking Strategies)の実習

グループワーク@

参加者が6つのグループに別れて、展示室で学芸員さんによるVTSを体験しました。「何がおこっていますか。」「それは、どこからそう思うのですか。」という問いに誘われて、子どもの気持ちになって、どんどん意見を言い、気づいたことを話しました。話が出つくしたころ、「今日は、みなさんで一緒にこの作品について感じたことを話すことができました。これで終わります。」と終了。いつもの授業では、ここから、説明したり、知識を伝えたりするので、ちょっと、驚きました。でも、この終わり方は、余韻が残っていて、イメージが広がっていくようで、とても気持ちがよいと感じました。

A: ファシリテーター 寺島洋子  作品:関根正二「三星」
B: ファシリテーター 北村仁美  作品:下村観山「木の間の秋」
C: ファシリテーター 藁谷裕子  作品:小杉未醒「水郷」 
D: ファシリテーター 藤田百合  作品:ゴンチャロヴァ「スペイン女」
E: ファシリテーター 斎藤佳代  作品:小磯良平「練習場の踊り子たち」
F: ファシリテーター 濱脇みどり 作品:国吉康雄「秋のたそがれ」

 

グループワークA

次に、さまざまな作品を2〜3人の小さなグループで鑑賞しながら、実際に自分がファシリテーターになったとしたら…、子どもだったらどんなこと話すかな…などと意見交換しました。グループワーク@で、心のストレッチがすんでいるせいか、たくさん気づきが会ったように思います。

 

グループワークB

そして、作品を選んでVTSのファシリテーターと子ども役に分かれての、実践をしました。とても楽しく、どんどんイメージが広がって終わったときには「あー、おもしろかった!」でした。ファシリテーター体験をした先生方の感想をご紹介します。

☆ファシリテーターをやってみて、感じたことは2つあります。1つ目は、中立の立場で進行させるはずが、つい自分の思い出が出てしまったり片寄った見方になったりしがちだったことです。2つ目は、最後、まとめなければという気持ちが出てしまったことです。鑑賞を通して、いろいろな人の見方と共に作品を味わえばよいと思うと気が楽になりました。楽しく鑑賞できました。
(大門中 土田貢司)

☆ファシリテイトするということは、潮目を読んで流れにのるようなものだと感じました。出てきた見方をこちらで言いかえ、進化させていく作業はこどもたちの批判的思考能力を向上させると共に受容を示すことだと思います。そうして生まれた流れの中で、一人一人が見える鑑賞の授業を行いたいと思います。VTSは「見ること」の入り口として参考になりました。
(御蔵島村立御蔵島中学校 太田水里)

☆VTSには大まかなルールがあった。「作品」と「鑑賞者」を繋げるという究極の目標のために、話のまわし方を工夫することと、主観を入れてはいけないことでいたがこれが難しく感じました。ひとつの作品について、多角的に時間をかけて話していくと、どんどん鑑賞が濃くなっていきました。仕切りをする人が作品の背景について深い理解があると、最後に「答え合わせ」的な楽しさがあったと思います。中学生は作品の背景、作者の生い立ち、時代や国の文化などを知りたがると思うし、教えるよい機会を作ることができると思います。
(八王子市立七国中学校 清水信博)

☆自分が作品への思いこみがあると中立な立場で話すのが難しいと思いました。(自分と違う見方の意見が出ると、思わず「すごい!!」と表情に出てしまいます。)中立の立場とりながら鑑賞者の発言を盛り上げていくのは大変だと思いましたが、いろいろな意見を聞くことができるVTSは面白いと感じました。
(大田区立雪谷中学校 堀内有子)

 

VTS(Visual Thinking Strategies)を踏まえたワールドカフェスタイルのディスカッション 
テーマ「中学生にとって美術館で鑑賞する意味とは?」

ワールドカフェ」とは1995年にアメリカではじまり、企業の研修やプロジェクト会議、読書会などで広がってきたといわれています。本日のカフェは「あぐらカフェ」(床に座布団)

@1テーブル3人〜4人で話しながら、思いついた言葉や絵を自由に模造紙に書き込む
A次に、1名がテーブルホストとして残り、他のメンバーは旅人として他のテーブルへ移動
Bホストは新しいメンバーにそのテーブルでの会話を紹介し、内容を共有する
C新しいメンバーで@のように対話、書き込む
Dこのプロセスをくり返す(今回は、元のテーブルへもどる)

「美術館に行ったらいいことは何か?」「本物に触れる」「美術館はきれい、涼しい、静か」等にはじまって、たくさんの対話が生まれました。「どうやって、中学生を美術館に連れて行くのか」などの工夫が披露されたテーブルもあったようです。こうして、知恵や知識やアイディアは、人々がオープンに会話を行い、自由にネットワークを築くことのできるカフェのような空間でこそ創りだされるとのかもしれないと感じました。また、チャンスがありましたら、コーヒー片手に何時間も議論を発展させたり、夢を語ったり、美術を愛する皆様とご一緒したいと思いました。

 

☆VTSの実践では素直に絵を鑑賞、VTSを通して絵が3Dのように浮き上がって感じた場面もありました。生徒の目線になって絵を鑑賞できたような気がしました。ざぶとんカフェでも、知らない人とも気軽に話が盛り上がり、お互いの意見を深められました。東近美を休館日に独占、研修が出来るなんて贅沢な研修ですね。一條さん、寺島さんをはじめスタッフの方々ご協力有難うございました。
(大門中 土田貢司)

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