夏季研修会「鑑賞教育に関わる研究」
日時:平成20年8月21日(金)13:30~17:00
会場:中野ZEROホール 地下一階視聴覚ホール
コーディネーター:町田市立町田第三中学校 校長 永関 和雄 先生
講師:東京国立近代美術館 研究員 一條 彰子 先生
講師:西東京市立田無第一中学校 教諭 濱脇 みどり 先生
講師:淑徳短期大学 教授 水野谷 憲朗 先生
(1) 演習 「アートカードを取り入れた鑑賞教育」
(2) 講演 「美術館を活用した、ギャラリートーク ~美術館側から見た鑑賞教育~」
(3) 講演 「鑑賞の授業実践「立ち寄り型鑑賞活動」
(4) 講演 「鑑賞の授業実践(題材)」
鑑賞教育をどのように行っていくべきか?今日、様々な研究がなされています。 今回の研修会では、様々な研究、実践について講師の方からお話いただき、鑑賞活動のあり方について考えることの出来る、非常に充実した内容となりました。著作権の問題等ありますので、掲載できない内容もありますが、可能な範囲でお伝えしたいと思います。なお、非常に充実した内容でしたので、HPにアップするのが遅くなってしまいました。大変申し訳ありませんでした。
(1) 演習 「アートカードを取り入れた鑑賞教育」
■アートカードとは?
アートカードとは、授業の中で活用することを目的とした作成された、鑑賞教育用のカードです。このカードのセットは、5つの国立美術館の、所蔵作品によって作成されていて、作品カードが各館13枚ずつ計65枚入っています。子どもたちに人気のある作品や、館を代表する名作など、バランスよく選ばれていて、西洋美術から工芸作品まで、幅広いジャンルの作品が含まれています。
■アートカードで、できること
このカードの、パンフレットでは、このカードを使って次の8つのようなゲームが提案されています。このパンフレットは、国立美術館で配布されていますので、詳しく知りたい方は、直接、国立美術館にお問い合わせ下さい。
「にたものつながりゲーム」 似たところを見つけてつなげていく 色や形、描かれているものの特徴をとらえ分類できる力がつきます。 |
「ペアをみつけろゲーム」 2枚のカードの共通点を見つける 観察力と、共通の特徴を言葉にして伝える力がつきます。 |
「マイ美術館」 4枚のカードで展覧会をつくる テーマに沿って想像し、物語を構成する力がつきます。 |
「カレンダーをつくろう」 好きなカードでカレンダーをつくる 季節感や自然の豊かさなどのイメージを広げる力がつきます。 |
「しりとりゲーム」 カードに描かれてあることを言葉にし、しりとりをする 注意深く観察する力がつきます。> |
「名探偵ゲーム」 どのカードを選んだのか?描かれていることについて質問しながらそのカードを当てる 言葉による表現力が豊かになり、批評力が身につきます。 |
「音あてゲーム」 擬音語・擬態語を考えて「音カード」を作り、その音に当てはまると思うカードを探す 作品の印象を大きくとらえ、言葉で伝える力がつきます。 |
「セリフあてゲーム」 カードの中の人物のセリフを事前に考え、その組み合わせを当てる 人の気持ちを考えたりする想像力がつきます。 |
■借り方
アートカード・セットは5つの美術館から貸し出しています。
詳しい内容については、直接、国立美術館へお問い合わせ下さい。
この研修後、アートカードを取り入れた授業を実践した先生もいますが、生徒には非常に好評だったようです。
◇アートカード申し込みから返却までの流れ
1.申込み:最寄、もしくは訪問予定の美術館に電話にてお申し込み下さい。
2.貸 出:宅配便(着払い)または、直接受け取りとなります。
3.返 却:申し込みをされた美術館にお戻し下さい。
◇返却の際の注意事項
アートカード・セットの中身が全てそろっていることを確認して下さい。
(アートカード65枚、美術館カード6枚、作品リスト1枚、ルールシート1枚)
紛失したり、傷んだりした場合は、お知らせ下さい。
東京国立近代美術館(本館、工芸館、フィルムセンター)
http://www.momat.go.jp/
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
教育普及に関するお問い合わせ
( 本館 )
TEL:03-3214-2605
FAX:03-3214-2576
E-mail:school@momat.go.jp
(工芸館)
TEL:03-3211-7781
FAX:03-3211-7783
E-mail:cg-edu@momat.go.jp
京都国立近代美術館
http://www.momak.go.jp/
TEL:075-761-9900(ハローダイヤル)
教育普及に関するお問い合わせ
TEL:075-761-4111
FAX:075-771-5792
E-mail:info@ma7.momakgo.jp
国立西洋美術館
http://www.nmwa.go.jp/
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
教育普及に関するお問い合わせ
TEL:03-3828-5131
FAX:03-3828-5797
E-mail:wwwadmin@nmwa.go.jp
国立国際美術館
http://www.nmao.go.jp/
TEL:075-761-9900(代)
教育普及に関するお問い合わせ
TEL:06-6447-4680(代)
FAX:06-6447-4699
国立新美術館
http://www.nact.jp/
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
教育普及に関するお問い合わせ
TEL:03-6812-9901
FAX:03-3405-2532
(2)講演 「美術館を活用した、ギャラリートーク ~美術館側から見た鑑賞教育~」
講師:東京国立近代美術館 研究員 一條 彰子 氏
1.いまなぜ鑑賞教育?─美術館の姿勢
2.鑑賞は学びなのか
3.対話を取り入れた鑑賞の基本
4.実践
5.教材
6.研修
1.美術館の姿勢
美術館の来館者に対する考え方、アプローチが変化してきた。
来館者を増やす普及活動⇒将来の来館者を増やす教育活動
学校と連携して、教育活動を行いたい。
2.鑑賞は学びなのか
鑑賞は、以下の4つの点で、教育的価値をもっている。
◇ 見 る 力:作品をよく見て、モチーフや色、形、特徴をとらえる、観察力や視覚的読解力
◇ 考える力:見たり聞いたりしたことを手がかりに、想像し、推理する思考力
◇ 話 す 力:考えたことや感じたことを論理的に、または表現力豊かに、話したり書いたりする言語力や表現力
◇ 聞 く 力:友だちの考えを批評的に聞き、自分の考えを深める、コミュニケーション力
3.対話を取り入れた鑑賞の基本
「見る」ことのトレーニングの中で、以下の点について考えながら実施する。
◇ 静かに作品を見る
◇「何が描かれていますか?」
◇「どこを見てそう思ったのですか?」★根拠
◇ 言い換え、要約、関連づけ
◇ 話題や視点を変える
◇ 教えない
◇ 否定しない
4.実践例
美術館で行われているギャラリートークの紹介。
(著作権・肖像権の保護の観点から詳細は割愛させていただきます。)
5.鑑賞教材
美術館で鑑賞教材の開発を行っている。
鑑賞教材キット(試作品)、2007年
国立美術館アートカード・セット、2008年
6.研修会
国立近代美術館、国立新美術館で、鑑賞教育についての研修会が行われた。美術館の学芸員も、教育活動のための工夫を行い、充実させようと活動している。
(3) 講演 「鑑賞の授業実践 -立ち寄り型鑑賞活動- 」
講師:西東京市立田無第一中学校 教諭 濱脇 みどり 氏
(実践校:豊島区立千登世橋中学校)
■ 中学校必修授業で美術館訪問が難しいわけ
◇ 近くに美術館がない
★ 授業時数が確保できない
★ 美術館との連携が難しい
★ 校内の理解を得ることが難しい
⇒★に関しては、活動のねらいを明確にすることで先に進むことができる
■ 「ふつうの中学生を美術館に連れて行く」ことの意味
「場」・「本物」の力 ⇒ 深く味わう・見方を広げる ⇒ ?
■ 鑑賞活動の人格形成上の意味
◇ 自分の内側(心のありよう)と外側(他者・世界のありよう)について知る (感じ取る・理解を深める)
◇ 楽しみ、充足感を得る
⇒現代社会を自立的・主体的に生きてゆく上で有効
■ 子どもたちの様子(豊島区立千登世橋中学校)
◇ 仲間関係を第一に考える
◇ 人とのつながりを求める
◇ 集団の一員という意識が希薄「天然自己中」
◇ 好奇心が強い
◇ 美しいもの、質の高いものへの憧れ
◇ 興味関心の多様化・細分化
◇ 関係ないと思うや「冷淡」に
■ 美術館鑑賞を行ううえでの不安
◇ 見知らぬおとなに心を開いて鑑賞活動に向かうだろうか?
◇ 発言を引き出せず、盛り上がらない
◇ 説明ばかりでは興味を持たせられない
■ キーワードは「つながり」
◇ 人とのつながり
◇ 日常とのつながり
◇ 造形活動とのつながり
鑑賞活動が人と人を結びつけ、子どもたちの中に自分達の日常生活や造形表現活動とつながりのあるものとして価値づけられていくことを目指す
■ 活動のポイント 立ち寄り型鑑賞活動
★2人組で行動
◇ リラックスしながら美術館の空間にとけ込みやすくする
◇ 共に見て話し合うことで見方を広げ、深く味わう
★ボランティアガイドと話す
◇ 一つの作品について知らない人と語り合うという経験から、コミュニケーション力と連動させた鑑賞力をつける
◇ 新たな情報や見方を手に入れることで深く味わう
■ 時数の確保
◇ 他教科・領域との複合カリキュラム
本実践では、本校の「総合的な学習」のテーマ「共に生きる」と関連させ、「総合」との複合カリキュラムとして6時間扱いで実施
⇒ねらいや意義を学年集団をはじめ、校内に明確に示すことで可能になる
■ 活動のながれ(6時間)
事前学習 |
体育館 全クラス合同 |
当日 (3時間) |
2クラスごと 鑑賞時間75分 |
事後学習 (1時間) |
クラス単位 美術室 |
■ 美術館との連携
◇ 事前の十分な話し合いが不可欠
・子どもの実態、活動のねらい・方法
・展示作品の内容、ギャラリースタッフの関わり…
◇ 美術館のもっているノウハウやプログラムを最大限生かせる工夫
■ 事前準備・学習の重要性
◇ 作品選定(おとな)
・展示作品全体とのバランス
・種類と内容…子どもの実態に合わせて
◇ 活動の目的や内容の理解(子ども)
・訪問する美術館の特長なども含めて
◇ 初発の感想や疑問をまとめておくこと(子ども)
・題名・作者名などの情報は与えない
・気づきを促す教師側の働きかけ
■ 「立ち寄り型」という方法
◇ 仲良し二人組効果
・安心感
・発言しやすい
・気持ちを持続させやすい
◇ 生徒80人にガイドスタッフ10人
・丁寧な対応…「大切にされている」
■ 対話型鑑賞活動について
◇ 感じたことを言葉にすること
→考えの明確化、深化
◇ 発言が受けとめられているという安心感
→のびのびとした気づき、活発な精神活動
◇ 情報の適切な提示
→見方の多角化、深化
◇ 他者の発言を聞くこと
→多様な見方、他者の存在に気づく
■ ふりかえり(活動の価値付け)
◇「色々な見方ができることがわかった」
◇「(作品には色々な)意味があることが分かった」
◇「込められた思いと表現方法の多様性を知った」
⇒〈知的な情報を得ること=学習=価値〉
■ 活動の定着のために
◇ 継続によって実感してもらう (子どもに、大人に 毎年が理想だが)
◇ 子どもたちの姿をみんなで見取る (「学び」について考え方を共有する)
(4) 講演 「鑑賞の授業実践(題材) 」
淑徳短期大学 教授 水野谷 憲朗 氏
(実践校:国立学芸大学附属小金井中学校)
鑑賞に関わる、非常に具体的な実践の事例を紹介していただきました。
著作権・肖像権に関わる部分が多く含まれるため、詳細については割愛させていただきます。ご了承ください。
記録・文責 都中美広報部 志手 伸圭(中野区立中野富士見中学校)