夏季研修会「日本画を描こう」
【夏季研修会】 ≫PDF版
日時:平成19年8月2日(木)14:45~16:15
平成19年8月3日(金)13:30~16:30
会場:中野区立第九中学校 美術室
講師:板橋区立加賀中学校 佐藤 真理子 先生
≪ テーマ ≫
「日本画の伝統的な技法を応用した題材と実技指導」
≪ 目的 ≫
1.日本画の伝統的な技法や材料を研究し、授業の題材開発と指導方法について考察する手立てとする。
2.日本画材料を用いて、授業に生かせる日本画の基礎技法を習得する。
3.日本画の伝統技法や材料を研究し、中学校における日本の美術鑑賞教育についてより深く考察できるようにする。
≪ 素材 ≫
1.雲肌麻紙・・・“麻”と“こうぞ”をすいた和紙。(弾力があり厚塗りができる。大作に耐えられ、現代作家が多く用いていると思われる。)ドーサ引きをしてあり、すぐに制作に入れるもの。
■ 麻紙の水張り
① パネルの側面に捨て糊をする。
② 麻紙の裏面に刷毛で水を引く。返し筆はしない。
③ 麻紙の裏面の4辺に糊を塗る。
④ 麻紙を張る。斜め方向に引っ張らない。
⑤ 中央に水を引いておく。
2.三千本膠・・・粒上の日本画絵具を和紙に定着させるためのもの。
■ 湯煎
膠30g(2~3本)を水200ccで溶かす。沸騰しないように、湯煎する。焦がすと粘着力が落ちる。
その他、粒膠などあるが、授業では瓶入りの既に溶かしてあり、保存料入りの膠で十分である。
3.ドーサ・・・上記の膠液をぬるま湯で三倍に薄め、生明礬を少量入れたもの。
和紙のにじみ止め、箔の上に絵具の定着をよくするための、変色を防ぐために使う。
4.絵皿・・・・絵具を溶く皿。白い陶器製の小皿がベストだが、学校で購入するならプラスチック製の安価なものでよい。
5.膠鍋・・・・膠を煮溶かす鍋(土鍋)。代用品としてジャムのビンなど湯銭に耐えられるものならよい。
6.さじ・・・・・水や膠をすくうもの。
7.筆洗・・・生徒用の水バケツ。
8.筆・・・・面相筆、彩色筆、平筆、刷毛。
9.砂子用具・・本来は竹筒。細かい網状のものなら代用できる。
10.竹箸・・・“箔のあかし”に使用。ピンセットでもよい。
11.ローソクまたはベビーオイル・・・“箔のあかし”に使用。本来はつばき油。 オイルの場合はバレンを使用。
12.日本画彩色材料
■ 墨(墨汁)
■ 新岩絵具・・・天然岩絵具は、輝きは美しいが、高価なため授業向きではない。
金属酸化物とガラス質のものを溶かし、塊にしたモノを砕いて作られたもの。番号がつけられており、最も細かいのが白(びゃく)と表示されている。後は13番(細かい)~4番(荒い)程度。
【絵具の溶き方】
① 絵具を絵皿に出し、1/3の膠水を加えて、指でよく練る。
② 使いやすい水の量を、少しずつ混ぜる。
③ 絵具は乾いて固まっても、水で溶きおろして使えるので、余っても捨てないようにする。また、熱湯で洗うと膠分がとれ、もどせる。
※ 絵具は膠を加える前に、水で濡らさないこと。(膠が定着しない。)
■ 水干絵具・・・天然・科学的なもの両方ある。水を使って原材料を精製したもの。胡粉に染料や顔料を混ぜたものもある。
【絵具の溶き方】
① 絵具を絵皿に出し、指や絵具の容器の裏でなどでよくつぶす。
② 膠水を少しずつ加えて、指で練る。
③ 少しずつ水を加えて使いやすい量まで溶きおろす。
■ 胡粉・・・・原材料はイタボガキの貝殻。
【胡粉の溶き方】
① 乳鉢で摺り、膠水を少しずつ加えながら練る。(柔らかくしすぎない)
② 団子状にして何回もさらに叩きつける。
③ 器に固定して水で溶きおろす。
※このやり方でなく水干絵具と同じ方法でもできる。
■ 箔・・・・洋金箔、アルミ箔(100枚セットで売られている安価なもの)
【箔のあかし】・・植物系オイルを新聞紙に数滴垂らしてバレンにこすり付ける⇒あかし紙にバレンをこすりつけ、それを箔の上に置き、箔を貼り付ける。
【箔押し】・・・・ドーサや薄めた膠水を画面に数回塗り、箔を置いていく。
【砂子】・・・・・ドーサや薄めた膠水を画面に数回塗り、砂子用の筒に箔を入れて蒔く。
≪ 授業への応用 ≫
1.生徒に伝えたい伝統的なもののよさや美しさを、日本画の技法を簡略化し、授業に応用していく中で、生徒に味わわせたい。
・日本画の空間を意識した表現。
・箔を使うなどの装飾的な表現。
・岩絵具の粒子の美しさ。
・岩絵具の伝統的な色名のおもしろさ。
・膠という初めての材料を知る。
2.今回の研修会のように絵画として制作する以外に以下のような応用が考えられる。
・掛け軸、屏風などの制作。
・版画やイラストなどのバックに箔押しや砂子を取り入れる。
・木片に箔を使った表現(立体や額縁など)その他にもボンドを使ってビンに貼ったりなど可能。
≪ 成果 ≫
今回の研修でできた作品。
今回の研修では、33名の参加がありました。
皆さん、“日本画”という不慣れな素材を扱いながら、生徒が感じているであろう「うまくできないもどかしさ」を感じつつ、夢中になって制作に取り組んでいました。
内容も授業に生かせる実践的なもので、充実した研修になりました。
記録・文責:都中美広報部 志手 伸圭(中野区立中野富士見中学校)